「ペトロフのピアノは、もっともっと魅力的になる!」
そう話してくれたのは、チェコの老舗ピアノメーカー ペトロフ(Petrof)の世界で1つだけの専門店「ピアノプレップ」の山内さん。
チェコといえばモノづくりの国のイメージがあるので、ピアノの質の高さもお墨付きかなと思っていたのですが、ペトロフのピアノは魅力的なのに過小評価されていることも多かったそうです。
「ピアノの魅力を最大限に引き出すのが調律師(技術者)の役割です。」ということで、調律師でもある山内さんに、ペトロフの魅力についてお話を伺ってきました!
目次
「調律屋」ではなく「ピアノの技術者」へ
調律師の資格を取るための専門学校もあるのですが、私が選んだのは古いピアノを直したりするピアノ工房。
専門学校では「調律」しか学べないと思ったので、あえて工房に勤めることで調律だけでなくピアノの修理まで学ぶ事にしたのです。
当時のピアノ工房の社長が「調律屋になるな、技術者になりなさい。」とよく言っていたのを覚えていますね。
ただ音を合わせる(調律する)だけではなくて、1台のピアノをきちんと楽器としてオーバーホール(メンテナンス)できるように技術者としてのレベルを上げていきました。
その後、1,000〜2,000万円もするような高級ピアノメーカー「スタインウェイ」などを扱うディーラーで調律師として働くようになり、そこにペトロフも並んでいたんです。
ピアノ工房では、使えないピアノを使えるようにする作業がメインです。いわば30点から50点のピアノを80点から90点にすることができれば、お客様の満足度も十分だったと思います。
しかし、スタインウェイのような高級ブランドになってくると、もともと90点のピアノを限りなく100点にしていくような 0.1ミリ単位の世界で調整を行った上で販売しています。
価格だけではなく、その名に恥じないそれ相応の対応こそが高級ブランドたる所以と言えるのでしょう。
スタインウェイでは、自社で優秀な調律師の育成も行なっていましたし、徹底していますよね。
私は、こういったピアノ工房から高級ブランドを扱うディーラーまで技術者としての経験が、今のピアノプレップに生きています。
チェコの老舗ピアノメーカー「ペトロフ」の魅力
ペトロフの最新のピアノであったとしても、150年以上前の古い歴史のあるピアノメーカーだけにそういう趣が今でも残っているところに心惹かれていますね。
そして、工業的なクオリティは西側ドイツの影響を、お洒落で洗練されたデザインは南側オーストリアの文化の影響を受けている印象があります。
北東の隣国ポーランドといえば日本でも人気のショパン、中欧の情緒を含む彼の作品はペトロフの抒情的な音色とも相性抜群なので、ぜひお試し頂きたいです。
実は「チェコ人といえば音楽家」という諺(ことわざ)があるほどチェコは音楽が盛んな国。スメタナ、ドヴォジャーク(ドヴォルザーク)などの有名な作曲家を輩出しています。
そして、ボヘミアガラスや自動車メーカーのシュコダ、ビール大国としても有名で「モノづくりの国」という印象も強いでしょう。チェコ人はとても職人気質であり「技術立国」といえます。
最後に、良質な森林資源。
チェコではヴァイオリンなど弦楽器もよく製造されており、ピアノ造りに適した良質な木材を育む森林資源がチェコ国内に存在しています。
ただ、これも国民性というか、チェコのメーカーは作るところまでは非常にこだわり、高い技術力を発揮するのですが、売るところまではあまり考えていないという現状はあったりすると思います。
それもあり、量販店のようなところで安さばかり強調されてペトロフが販売されていたこともありました。
また、チェコ人はものを大切にする傾向が強く、音大生でもチェコに留学した方は古いペトロフ(しかもあまり整備されていない)しか触ったことがないなんてことも。
さらに、社会主義当時のピアノがそのまま使われており「あまり調整もされず作りも荒い」そんなイメージもあって留学した方々にはあまり良いイメージはないそうです。
日本に帰ってきて最新のペトロフを触って「ちゃんと手を入れたらこんなに良いんですね?!」という状態でした。
なので、このショールームの室温は20〜25℃、湿度50%前後を24時間徹底して保つようにしています。1,000〜2,000万円のピアノを扱う輸入元はこういった部分も徹底して行っていたんです。
ブランドだけで満足しがちですが、裏ではそれだけの価値をつけるだけの仕事をしています。
ペトロフも、スタインウェイと同じ仕事(プレップアップ)をしてあげることで、とても魅力的な楽器に生まれ変わる、もっともっと魅力的な楽器になると考えたわけです。
ペトロフの魅力を最大限に引き出す専門店
しかし、私が選んだのは「ペトロフ専門店」。
決して大きくはなくこじんまりとしたショールームですが、きちんと調整されたペトロフのピアノが並び、温度・湿度も徹底管理されたこの場所で、ペトロフの本当の魅力を感じてもらおうと考えオープンさせました。
世界でもペトロフの専門店はここだけなんです!
ペトロフのピアノは、ストレートの足から猫足、木目のバリエーションなどかなり幅広く、ピアノのデザイン性という部分も他のメーカーにはない強みだと考えています。
この強みを表現するためにも、専門店としてバリエーション豊かな部分を見せていかないとと思った次第です。
日本国内では、やはりヤマハ、カワイの両メーカーが圧倒的なシェアを誇っていると思います。そして、その延長にある高級ラインとしてスタインウェイ、というイメージが強いと思うんです。
今となってはペトロフを知っている方も多くなっていますが、ちゃんと整備されているものは非常に少ないはず。
だからこそ、私がプレップアップ(出荷調整)とその後のメンテナンスを行い、ちゃんと整備することで、皆さんにペトロフの魅力を知ってもらおうと思っています。
オートメーション化しているような工程を、ペトロフでは昔ながらの機械で、いまだに人の手でピアノを製造しています。
それこそバイオリンのような「人が作った楽器」というのが、ペトロフのピアノの特徴。温かい音色がするというのは、こういう工程があるこそだからだと感じています。
多くのピアニストや音大生はヤマハやカワイで育ってきているので、他ブランドのピアノを使ったことがない方もたくさんいらっしゃいます!
ペトロフを弾いて「こんな音がするんだ!」という発見をしてほしいですね。
ただ、その評価が問題ですね。
もちろん、我々調律師の中でもペトロフの魅力は分かってはいたのですが、安売りされていた経緯があったり、手入れがされていなかったりと、あまり良い印象はなかったはずです。
また、販売するにしても、全く調整されていないピアノを販売してしまうと、購入後のアフターフォローの方が大変で、メンテナンスをするのが非常に難しいのです。
結果的に、案内しにくい状態になりますよね。
そこで、ピアノプレップというわけです。
ペトロフ専門店で徹底管理下のもとプレップアップ(出荷調整)されたピアノであれば、安心感もあるしその後のメンテナンスもしやすいということもあり、最近は同業者がお客様を連れてくることも増えてきました。
私自身もFacebookやInstagramを使って、ピアノを納めた後のお客様の様子や、楽しそうに使われている様子、ちゃんと手を入れている様子などをアップすることで、信頼を得られるようになったと実感しています。
日本人って、すごく良いものだとしても「他の人はどうかな・・・。」って思っちゃいますよね。
昔は、音楽雑誌やコンサートのパンフレットなどに広告を載せることで知名度を上げるしかありませんでした。
「良いものを作る」よりも「どうやって伝えるか」の方がものすごく難しかった印象です。
しかし、私ひとりで切り盛りしている専門店ではありますが、ネットやSNSのおかげで徐々に認知度も上がりましたし、5〜10年前よりも「メーカーとしてどうやって宣伝していくか」という部分も考えてくれるようになったと思います。
また、「ちゃんと手入れをしていない一流ブランドよりも、きちんと手入れをした二流ブランドの方がよく感じる」と昔からよく言われていますが、そういう点を考えてもブランドだけではなく調律師(技術者)と楽器とをセットでトータルで判断しないと「本当に良いピアノ」とは判断できないものです。
ペトロフは、そういう意味で過小評価されていたブランドなんだと思います。
今までは手が入らないまま売られていたので、だからこそこういう専門店を作ることで魅力を発信し、「本当のペトロフ」の認知度を上げていきたいなと考えています。
ペトロフを通じて、音楽を色々な形で楽しんでほしい。
ピアノといえば、日本の場合はコンクールやホールで弾くようなイメージが強いと思いますし、購入される方もそこを意識していることも多いでしょう。
そういった日本の環境はもちろん理解しつつ、その上で少し違った視点で私は考えています。
色々な価値観があると思いますが「音楽は、楽しむもの。」だと私は思っているので、競争ではなくもっと趣味性の高い自分が弾いていて楽しいと思えるような、自分が好きな音色で好きな曲を弾きたいという方々にペトロフのピアノをお勧めしていきたいです!
現在は、神奈川県の鎌倉・戸塚・池上など、ちょっとずつサロン空間にペトロフを収めていまして、そういった場所でピアノだけに限らず「チェコの魅力」を発信していこうと思っています。
鎌倉では、チェコビールやワイン、雑貨などの輸入販売を行なっているP&Mさんにワインを用意してもらい音楽とともに楽しんでいただきました。
チェコの文化の啓蒙と音楽とを合わせるなど、魅力が2つ以上組み合わさることですごく面白いイベントができたりします。
日本はクラシックというとかしこまったイメージが強いですが、もっとカジュアルに楽しんでも良いと思っていますので、音楽のいろんな形をこのペトロフのピアノを使って提案していきたいですね。
チェコのピアノを聞きながらチェコに没頭したい。
いつか、チェコのピアノを聴きながら、チェコワインとかビールを飲んで、みんなでチェコ話で盛り上がりたいなぁ。
そんな日が来ることを、願っています!
お時間いただきありがとうございました。